2026.2.8 正木ブログ
EU発着の航空機の遅延等の補償について
もう数年前になりますが、アメリカ・カナダ旅行をした際、行きのシカゴ行きの飛行機の出発が遅れ、トロントへの乗り継ぎ便を乗り過ごすことになり、翌日の飛行機に振替えられることとなりました。
100%航空会社側の責任での遅延でしたので、無事ホテルバウチャーを受け取り、シカゴに1泊いたしました(トロントの1泊は無駄になりましたが…)。
さて、航空機が遅延した場合の補償については、航空会社との契約に基づく補償、旅行保険に基づく補償のほか、法律や条約による補償規定があります。この時の北米旅行では航空会社の規約に基づく補償でしたが、実は地域によっては法律で非常に強力な補償が定められていることがあります。
今回は、私が前所属事務所のブログに書いた、ヨーロッパの強力なルールについてご紹介します。
航空会社泣かせ? 悪名高き「Regulation 261/2004」
飛行機においては、オーバーブッキングはしばしば発生する問題であり、飛行機という輸送手段の特性上、過剰積載ができないことも相まって、搭乗拒否(Denied Boarding)自体は認められています。
そして、このDenied Boardingに関して、EUには「Regulation 261/2004」という極めて有名な(航空業界からは悪名高い)規則が存在します。 この規則は、昨今話題となっているオーバーブッキング/搭乗拒否(Denied Boarding)のほか、搭乗便のキャンセル(Cancel)・遅延(Delay)に際しての損害補償等について定められています。
【EU規則261/2004が適用されるフライト(第3条)】
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この規則が適用されるのは、以下の2つです。
① EU加盟国を出発するすべてのフライト
② EU加盟国へ到着するフライトのうち、EU所属の会社が運航するもの
【具体的な補償内容(搭乗拒否・キャンセルの場合)】
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予定便の距離に応じた250・400・600ユーロの支払い
払戻(Reimbursement)または代替輸送(Re-routing)
ホテル等のケア(Right to care)など
「飛行機がキャンセルになったんだから補償されるのは当たり前ではないか」と思われるかもしれません。しかし、飛行機は機材故障等で遅延することはやむを得ない交通手段であるため、この支払いは航空会社にとって極めて大きな負担となっています(ヨーロッパのLCCなどは、チケット代は1万円にも満たないものが多数あるので、250ユーロの補償というのはかなり高額です)。
嘘か本当かは分かりませんが、「1本キャンセルすると航空会社の1日の利益が吹き飛ぶ」という話を聞きました(この話をしたのは航空会社側の弁護士なので若干眉唾ですが)。
モントリオール条約と「異常な状況」をめぐる攻防
航空機による損害賠償については1999年モントリオール条約が存在し、この条約においても航空機の遅延損害について定められておりますが(19条)、この条約はむしろ航空会社の責任を制限する方向に働いていました(乗客への損害賠償は2026年時点で6303SDRが上限とされています)。 このEU規則はこれと真逆の方向を向いており、当然関連性が争われました。しかし、ECJ(欧州司法裁判所)はこのEU規則はモントリオール条約に抵触しないとしています。
では、航空会社はいかなる場合でも補償しなければならないかというと、そうではなく、規則上、Extraordinary circumstances(異常な状況)によるCancelについては補償は不要とされております(5条3項)。
しかし、この”Extraordinary circumstances”は「航空会社が争うたびに狭まっていく」と言われるほどに航空会社が争っては敗北を繰り返していく、惨憺たる歴史が判例上みられます。例えば、乗員の労働法上の制限で飛べなかった場合や、エンジン故障でエンジンを運んでこなければならなかった場合などは「異常な状況」にはあたらないとされています。
ヨーロッパの法務事情と、厳しすぎるルールの余波
日本と異なり、EUではこのような事件の処理を社内法務部でおこなわずに弁護士事務所に依頼するケースも多く、大手法律事務所ではAviation(航空)部門に若手の弁護士を配置して酷使……もとい、大量に事件処理させることで経験を積ませております(私が研修したInce&Coという法律事務所にもこの部門がありました)。
実はEUにはこの規則のように強硬な規則が多数存在し、それゆえ利害関係人の反発を招いております。イギリスのBrexitも、このようなEU当局のバランスを失した規則の多さにあるとも評されております。
日本人旅行者も対象!
なお、繰り返しますが、この規則は「EUを出る飛行機」であればすべてに適用されます。日本航空であっても、LCCであっても関係ありません。乗客の国籍は問われていません。 (実は、チェックインカウンターにこの規則の説明を置く義務があり、実際よーく見ると説明書きがあります)
そのため、「海外旅行でヨーロッパに行ったけれど帰りの飛行機が遅れた/キャンセルになった」というような方でも請求ができます。EUの航空会社(フランス航空など)であれば、行きの便にも適用があります。
私自身はEU発着便で大幅な遅延にあったことはないので残念ながらこの規則のお世話になったことはありませんが、被害に遭われた方は是非お試し下さい。


