2025.11.16 離婚問題
不貞がバレたとき、法律家はなぜ“完全否認”を選ぶのか

私は家事事件を多く扱ってきましたが、家事事件と「不貞慰謝料」とは、切っても切れない関係です。このため、いわゆる「不貞慰謝料の請求」(これは家事事件ではなく、一般の民事事件になります)もまた、非常に多く扱ってきました。
そのなかで、「不貞発覚時、ひとは、どう対応するのか。その時、ベストな対応は何か。」というのは、常々、非常に興味深い問題だと思っています。色々なパターンがあり得ます。
1. 全面降伏。すべて事実を認め、謝罪する。
2. 完全否認。「いや、やってない。とにかくやっていない。何が何でもやっていない。俺にはお前しかいないんだ」で貫く。
3. 「●●(食事・手をつなぐ・キス、うんぬんかんぬん…)まではしたが、セックスはしていない」
などなどです。
さて、この中のどれが正解か、というのは、全く悩ましい問題で、法律家であってもなかなか正解が出せないようです。
私が知っている、とある弁護士は、
女性とホテルの一室に入っていちゃいちゃしているところを、奥さんにおさえられ、その現場で、「俺は絶対に潔白だ。まったくなにもやっていない。」と言い続けました。
当の本人からその話を聞いて、私は、「あの、先生、その言い訳はさすがに通らないんじゃあないでしょうか。」とお伝えしました。しかし、弁護士先生は、いや、俺はやっていない。と言い続けられました。
訴訟になり、結果としては、当たり前ですが、不貞は認められました。それでも本人は、裁判所が間違っている、と平然と言い続けておられました。
これまた私の友人の、とある検察官は、
女性とベッドの中にいるところを妻に踏み込まれ、「違う。違うんだ。これは違うんだ違うんだ何かの間違いだ」と言い続けました。
その話を聞いて私はあきれ返り、「あなたなあ、それって、刑事事件だと検察側が、『被告人は不合理な供述を続け、反省の態度もなく~~』って論告するヤツでしょう?あなた、自分の法廷で、そんな言い訳、被告人がしたら、どう思うんだよ?」と聞きました。
すると本人は、「いや、否認するんだ。ともかく否認すること自体が、大事なんだ。刑事弁護と同じだよ」と、刑事弁護人ばりに決然と述べられ、それはそれで、見事な腹のくくり方であることよ、と感服したことがあります。
これまた、私の知人のとある裁判官は、
妻に風俗店のスタンプカードを複数枚、抑えられたとたん、実力を行使して証拠を奪い返し、破り捨てたうえ、自宅から出て行って別居し、逆に妻に対して離婚請求をしてきました。
それも、奥さんには最低限の婚姻費用しか支払わず、「別居が長引けば、いつかは必ず離婚になる。いますぐ離婚するなら相当の額を支払うぞ」と、奥さんの経済的な弱みに付け込んで、自分の不貞は棚に上げて離婚を迫ってきました。
この話を聞いた私は、さすがに実務を知り尽くした男らしいやり口であるものよ、と、ほとほと感心したものです。
全く逆のパターンですが、私の後輩弁護士(男性)で、「バレてもいない不貞を、突然、奥さんに自白して修羅場になった」という、何とも言えん事件もありました。
頼まれて間に入って解決したのですが、なんでまた、ばれてもいないのに自白してしまったのか、今でもさっぱりわかりません。
とまあ、こうやって見ていると、ともかく不貞がばれた時、法律家は、2の「完全否認」という方針を貫くことが多いように感じます。あくまでも個人の感想です。
また、堂々と、「俺絶対やってないから」と自信満々に言われると、夫の不貞を信じたくない妻としては、「もしかしたら本当にやっていないのかも。。。」という方向に考えが傾きがちなのも、また、事実ではあります。
というわけで、先日大いに話題を呼んだ前橋市長殿のラブホ通い報道は、きわめて興味深く拝見しておりました。
彼女は、結局3の道を選んだようなのですが、それによって、結局更なる批判を浴びました。
それでも、辞職しない胆力は大したものだとは思います。
これが「男性市長が、夫ある女性部下とラブホに通った」というケースだったら、どんな男でも大泣き土下座記者会見即辞職、ではないだろうかと思わずにはいられません。

