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コラム

企業法務

元役員、従業員や再委託先との「顧客の奪い合い」について

競業避止義務と損害賠償

最近、とてもこの手のご相談が多いので、少しご説明しておきます。


退社した元従業員が、競合会社を立ち上げる場合

あらかじめ従業員から誓約書をとるとか、雇用契約書に競業禁止を書き込んでおかない限り、辞めた従業員の競業行為を咎めることは非常に難しいです。わが国の憲法では、職業の自由が保障されています。従業員が経験を積んで独立し、前の勤務先と同様のサービスを展開し、自由競争の結果、お客が離れていく、ということは、経済的にはしごくあり得ることであり、違法とは言いにくいのです。元従業員の側としては、それ以外にほかに生計を立てる道がないこともありますから、なおさらです。

と、このように書きますと、経営者のなかには、従業員が退職の意思を告げたとたんに、「退職後3年間は同種の職業につきません」などという誓約書にサインせよ、サインしないのならば退職は認めない、などという方がいます。

しかし、退職しようとする従業員側にこれにサインする義務があるかというと、ありません。ですので、サインを強要してしまうと、その強要行為が違法行為になることもありえます。

じゃあ、どうしたらいいんですか、といわれますが、基本線は、辞めようとする従業員を上手に説得し、よく話し合い、お互いの妥協点を見出すことです。そのうえできちんと合意書を交わす。

客を奪われる!となるとどうしても経営側はカチンと来ますが、そこは落ち着いてください。ここでミスをすると本当に客を奪われてしまいますが、やりようによっては妥協点を見出すこともできます。同じ商売でも、場所や、メインとする客層やポイントを少し変えて、被らないように努力することは可能ですし、競業をしないでもらう代わりに、一定の退職金などを出す、という結論もあり得ます。ここは工夫次第です。


競業をしない旨の誓約書

上述のとおり、従業員がやめようとするときに、誓約書への署名捺印を強制することはできません。であれば、採用の時に、誓約書へのサインを求め、これを守らないのであれば採用できません、ということは可能です。

ですが、じゃあ、退職後10年間、日本全国どこにおいても、同様の商売や類似する商売は一切やりません、という内容の誓約書にサインさせればいいかというとそれも違います。あまり広範囲にわたる禁止だと、裁判所によって、これは職業選択の自由を侵害して無効と判断されることがあります。内容については専門家に相談されてください。

採用の時に誓約書を取っておくことのメリットの一つは、これによって、従業員に対する一定の心理的拘束をかけることができることです。止めて独立しようかな、と考え始めたときに、でもオレ、あのときあんな誓約書にサインしたよなあ。と思い出すかどうかは重要です。

従業員の側からいうと、まず自分がそのような誓約書にサインしたかしなかったかをよく思い出すこと、もしサインしている場合にはその内容を確認することです。手元に誓約書がない場合にはなんとかして会社から見せてもらってください。それだけで会社から警戒され、いじめられるのではないか、とご心配な方は、やはり弁護士に相談された方がいいでしょう。

もっとも、誓約書があったとしても、まだまだ問題はあります。たとえば、問題となっている行為が「競業」に当たるか、とか、たとえ当たるとしても、それによって会社に損害が生じている、と立証できるか、その損害が、まさにその競業行為によるものであって、ほかの要因(景気など)によるものではないと立証できるか、などです。


取締役の競業避止義務

元取締役が競業行為を始めたという場合についても、直ちに違法だ!損害賠償だ!というわけにはいきません。取締役は、在任中は会社に対して忠実義務を負いますが、会社との契約が終了し、退任したら基本的には自由です。

なので、この場合にもやはり退任後の競業について何らかの誓約書を、できれば取締役が就任するときに、取っておく必要があります。


競業が不法行為になる場合

以上のとおり、元役員や元従業員による競業行為が直ちに違法、不法行為となることはあまりありません。しかし、例外もあります。

たとえば、元役員が、在任中から従業員を引き抜いたり、会社のノウハウを使って競業行為の準備をしている場合には、それは、会社に対する忠実義務違反になりえます。あるいは退任後であっても、あまりにも大量の従業員を引き抜いたり、会社の企業秘密を持ち出したりしているような場合にも、忠実義務違反となり得ることがあります。

また従業員の場合でも、職務中から退職後の起業準備をしているような場合には、職務専念義務違反になりえるでしょう。


まとめ

このように、辞めた従業員の競業を咎める、というのは難しいことです。しかし、何も手当をしなければ、がっつりお客さんを持っていかれてしまい、会社が存亡の危機に立たされるということもあります。そうなってから、辞めた従業員や役員を訴えても時遅し、となることがあります。本来そのようなシーンでは、会社の持てる力をすべて再建にそそぐべきで、訴訟に力を割いている場合ではないはずです。

なので、会社経営者はくれぐれも、このような事態を防ぐ方に全力を注がれてください。また起業をお考えの方は、せっかく新会社を立ち上げたとたんに、前の勤務先から訴えられて窮地に陥ることがないようにご注意ください。競業のトラブルは、ともかく予防が大事です。

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